千鳥ヶ淵の桜 由来と現在(1)

その1 千鳥ヶ淵の桜 現在

千鳥ヶ淵に桜が咲く頃、今や世界各地の人が、桜を愛でるために訪れます。しかしながら、「この桜は多くの人に守られている」ことを知る人は少ないでしょう。

この景観は千代田区が管理していますが、これら桜の中で古いものは樹齢60年を超えており、異常気象の影響か2012年と翌年に降った大雪で、老木は傷められています。かつては大きく張り出し、凛としていた大木も、今やその勢い力が失われつつあります。しかし、花の咲いた千鳥ヶ淵は、水辺の史跡に守られて、今なお多くの人々を魅了しています。

このような老木を、往年の女優に例えれば、永年のファンの力が大きいことは想像できるでしょう。桜の持つ妖艶な魅力は、とことんほれ込んだファンが支えているわけです。

春になって、桜を見にくる人々には、千鳥ヶ淵は観光地かもしれませんが、千代田区民5.446万人には住居地であり、故郷なのです。この町には平日でも在勤在学者が区民の10倍以上が訪れ、昼人口と夜人口差が著しい町です。それが桜の頃になると平日人口の10倍以上が訪れます。行政には、急激に増える人々の安全を守らねばならないし、区民には花見客による騒音やゴミ投棄に悩まされ、平常の暮らしが脅かされる時になるのです。

その上、この町を愛する人には、次第に老いていく桜の状態を憂い、景観の維持と今後をどうすべきか不安にさせていました。そこで区民と行政は協議会を重ねに重ね、ついに持続可能な保全の方法をみつけだしました。それが2004年にはじまった「区の花さくら再生計画」です。当初5年計画でしたが、今やその3倍の歳月が過ぎました。

では、「区の花さくら再生計画」とはどのようなものでしょうか。区で作成した「区の花さくら再生計画」書にはこう書かれています。まず、理念は「千代田区にふさわしい、そして日本を代表するさくら景観を創造、持続する」と書かれています。そして、その考え方を、運営と整備、育成管理の3本の柱について基本方針があります。今回詳細は省略しますが、行政が、区民や桜を愛する人々と一体となって、この方針にのっとった仕組みでこの景観を守っているのです。そして、それが今日まで継続されているからこそ、美しい景観が維持されているのです。

さくら美守り隊が募金を募る様子
さくら美守り隊が募金を募る様子

 お気づきの人もいるでしょうが、桜祭りの時期になると、「さくら基金」の募金の箱が、千鳥ヶ淵緑道の2か所に設けられます。そこには多くの人が、待ってましたとばかりに募金してくれるので、桜の手入れや啓発活動資金が賄われています。

  では、管理すべき桜の数は、推定ですが6000本の桜があるといわれます。増える観光客にどう対応していくのか、資金も人手も、更に高齢化していく桜を高齢化社会はどうむきあうのかが課題です。

私は埼玉県在住の桜好きで、2004年から「区のさくら再生計画」の末端ながら関わらせていただいて、この素晴らしい再生計画が、まだ広く知られていないのが残念なので、この場で紹介することにしました。

桜の季節は寒い日も多く、街頭で募金集めや、夜遅くまでゴミ拾いする人も高齢化しています。彼らの使命感と桜への想いの篤さに頭が下がりますが、今後もっと「桜を守る人」の仲間に若い担い手が増えていくことを願っています。私も毎年千鳥ヶ淵の畔へ吸い寄せられるように向かいます。これも桜の魔力なのでしょうか。

関連記事