環境とさくら

葉の染色から気付いたこと

左から、郊外の葉、2003年12月、2004年9月、2004年4月の染色

 2003年の冬 東京都中央区銀座の交差点にあるサクラの落ち葉を拾い集めて、タオルハンカチーフを染めました。最初は銀座のサクラはどんな色になるかという好奇心でしたが、その染色途中に黒ずんだものが浮きあがって驚きました。右の写真の中の右3枚が黒ずんだ色が分るタオルハンカチです。
 これらのハンカチは、2003年冬と翌年の春と夏に染色し、年間の色を比較したものです。ハンカチ半分から下は黒く染まっており、交通の激しい場所の落ち葉で染色した結果。付着していた物質と考えられます。
写真の中で左の1枚だけは、黒ずんだものは染まっていません。郊外の閑静な場所で採取した桜の葉です。

そこで調査をしてみました

 このサクラの葉で染色すると黒い色が染まるので、その原因を探るために2004年9月に光学顕微鏡を使って、葉の表と裏を調べてみました。

染色した落ち葉を採取した中央区銀座交番の横にあるサクラで、「はぐれ桜」と名札がついています。

まず、葉の表と裏に粘着テープを付けて、付着しているものを100倍と400倍にして光学顕微鏡で調べました。

写真協力
EM研究機構 東京事務所
星野 豊研究員
100倍で調べた葉の裏、黒いものが斑点状に付着

この実験では、日比谷公園内と東京都小金井市個人宅のサクラ葉も同様に調べました。 その結果一番多く黒いものが付着していたのは、銀座の交差点のものです。これは排気ガスの色かもしれません。 私たちも交通の激しい場所では、同じ空気を吸っているわけです。都内の空気が汚染され、その影響が心配です。

 2年後の2007年秋、再び銀座の交差点と小金井市のサクラ葉の表裏を調べました。前回同様銀座の交差点で集めたサクラの葉に黒い点が多く付着していました。
 サクラの葉に付着していた黒い成分を分析することはできないので、物質がなんであるかは分りませんが、郊外に咲くサクラの木と異なっている点を考えると、粉じんなど排気ガスに汚染された結果だろうと想像できます。
 東京都千代田区の職員から聞いた話では、高速道路の入り口に植えたサクラはすぐに枯れてしまうのだそうです。都内の大学でサクラを研究している先生も、道路沿いに植樹したサクラだけが枯れると嘆いていました。おそらく排気ガスの影響ではないでしょうか。
 こうした都会の落ち葉によるユニークな染色結果と美しく染色した作品を2007年の秋から春まで7ヶ月間、東京都八王子市にサクラの保存林「多摩森林科学園」で展示しました。サクラの染色した美しい色だけでなく、人とサクラの周囲の環境を再確認して欲しかったからです。多くの人に見ていただき、いろいろな反応をいただきました。
 日本全国でサクラが枯れかかっています。先に述べた実験で、その原因を寿命だけでなく、サクラを取り巻く環境悪化が原因ではないかと考えます。その環境悪化は、現代の私たちの暮らしや未来の日本の暮らしに影響するでしょう。サクラをとおして日々の環境を考えてみてはどうかと提案しています。

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